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「どんな本も現実の攻略本だと思って読んでしまうんです」:ニッポン放送アナウンサー・吉田尚記

ラジオ局のアナウンサーとして知られる吉田尚記さんは、アニメやマンガにも造詣が深く、多忙な生活の中でも数多くの本を読む読書家でもあります。そんな吉田さんにこれまでの読書経験や、ライトノベルやSFと出会った時の思い出、さらには多忙な中でも読書を続ける秘訣など、本にまつわるたくさんのお話をうかがいました。


――子供の頃の本の思い出などはありますでしょうか?

吉田:うちは両親がふたりとも本を読むタイプで、本を買ってきてくれてそれを読むというのが習慣としてありましたね。僕も小学生になったらずっと図書館で本を読むタイプの子になっていました。多分小学校に入ってから卒業するまでに、本を借りてなかったタイミングが一度もないと思います。

その頃、古田足日先生の『大きい1年生と小さな2年生』という本がめちゃくちゃ好きで、あまりにも何度も借りて来るんで、祖母が同じ本を買ってくれました。なんでそんなに好きだったのかは覚えてないんですが、なんか好きでしたね。


――以前、好きな作品に、笹本祐一先生の『ARIEL』や火浦功先生の『大熱血。未来放浪ガルディーン』など、現代のライトノベルにもつながる作品の名前を挙げていましたが、それらの作品にはどのようなタイミングで出会ったのでしょう?

吉田:多分、小六か中学校に入った頃ぐらいだと思うんですけど、当時はまだ角川スニーカー文庫もなくて、角川文庫の一冊として買ったんですよ。最初に手に取ったのは、火浦功先生の『たたかう天気予報』ですね。イラストは確かいしかわじゅん先生だったんですが、タイトルと表紙のインパクトだけで買って読んだらめちゃくちゃ面白かったっていうのがきっかけですね。

それと、その頃に周りでゲームブックがめちゃくちゃ流行ったんですよ。ゲームブックとライトノベルはジャンル的に近くて、東京創元社から出ていた『ソーサリー』や社会思想社から出ていた『ウォーロック』あたりも読み始めてそういったあたりからハマっていきました。


――最近のライトノベルでは、異世界ものが流行っていますが、吉田さんから見てどのようにお感じになりますか?

吉田:異世界自体というより、むしろ異世界の設定を考えている人はどうやってこんなことを考えたんだろうっていう部分に興味がありますね。以前支倉凍砂先生の『狼と香辛料』を読んだとき、なんでこんな世界考えたんだろうって思いました。相場の話をライトノベルでやるってのが凄く斬新で。


――吉田さんは『次にくるライトノベル大賞』の企画を聞いたときにどう思われましたか?

吉田:小説っていつ読まれるかが凄く重要だと思うんですよね。たとえば同じ小説を読むのでも2019年に読むのと、コロナ後の現在に読むのでは読書体験として全然違うじゃないですか。確実に今の時代を意識することになると思うんですよ。だからこのような賞が登場することには意味があるんだと思います。


――今だからこそ読んでほしい小説があるということですか。

吉田:そうですね。SNSがない時代の小説とSNSがある時代の小説は違ってしかるべきだと思います。読者の視点からも、時代によって本の読み方もいろいろあると思うんですよ。

読み方と言えば、書評家をやっている書店員さんの知り合いに、その人年間600冊とかめちゃくちゃ読んでいるんですけど、「なんでそんなに読むの?」と聞いたら、「現実逃避だから」って言われて、現実逃避って言われた時に「おや、俺とは違うな」って思って。


――吉田さんはどのような本の読み方をされるのでしょう?

吉田:僕は割と意地汚い本の読み方をする方で、どんな本も現実の攻略本だと思って読んでしまうんです。たとえば北海道が舞台の小説を読んだら、なんとなく北海道のことに詳しくなるじゃないですか。北海道に行ったときの楽しみが増したりしますよね。

もちろん実用書を読んだらストレートな意味で役に立ちますし、小説も実用書も同じような意識で読んでいます。


――現在はどんな小説をお読みになられるんですか?

吉田:ものすごく読んでるタイプじゃないんですけど、ジャンルとしてはSFが好きです。僕はSFに登場するようなありえない話を聞きたいんですよ。三角関係のラブストーリーを読んだとしても、「結局どっちかとくっつくんでしょ」っていう冷めた見方をしてしまうんですけど、SFってまだ人類が考えたこともないような問題や設定がいっぱい出てくるじゃないですか。

たとえば柴田勝家さんの『アメリカン・ブッダ』という短編集の中に「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」という短編があるのですが、その作品では、生まれてから死ぬまでずっとヘッドセットをつけて生活をしている部族が中国の山の奥にいる、っていう設定が最初に出て来るんです。ああいうのを読むときワクワクしますよね。そんなこと考えたことないって。そういうのが最高って思ってます。


――お仕事で多忙だと思われますが、普段は本を読む時間をどうやって作っていますか?

吉田:電子書籍様々ですよね。たまに資料などを翌日までに何十冊も読まなければいけないというときがあるんですけど、だとしても、電子書籍ならポケットの中に入るわけじゃないですか。僕は漫画だったらスマホの小さな画面じゃなくて、せめてタブレットの大きな画面で読みたいって思っているんですよ。けれど、小説は別にスマホの画面で読んでもそんなに読書体験を損なわれない。なので、電車待ちの数分とかエレベーター待ってる間とかにちょろちょろ読んでます。だからがっつり読書の時間を作れているわけじゃないんですね。


――ちなみに本を読むときはどのような基準で選んでいますか?

吉田:そこに書かれている内容が想像もつかなければつかないほど読みたくなります。その際、あらすじだけでは決めないですね。まず一度は本屋さんに行ってパラパラと読むんです。そうしてバーッと見た中で、この本はこのあたりがすごく面白そうだから、ちゃんと向き合って読もうって決めるんです。パラパラ読みでもある程度内容がわかるので、人間の認知能力的は凄いですよね。


――それは文体とか出て来る単語でわかるんですか?

吉田:そうですね、毎回凄く面白そうと思って買うんですけど、読んで面白かったのはそこだけだったな、みたいなことも結構ありますね(笑)。2時間かけて読んだけど、5秒で見つけたところが一番面白かったなみたいな。でもそれを失敗だとは思いませんね。5秒だけでも魅力は見つけられるなあっていう。ちゃんと2時間かけて読まないと本を読んだことにはならないみたいなことは全然思ってなくて、30秒間読むだけでもまったく読まないより全然良いと思っていますね。


――そうした読書欲のようなものはどこから来てるのでしょうか?

吉田:昔、書評家の福田和也さんが『作家の値うち』という本の中で、栗本薫先生の『グイン・サーガ』っていう何十冊も続いている本の書評をされていたんです。その頃一緒にレギュラーで番組をやらせていただいていたので「グイン・サーガはどこまで読んだんですか?」って尋ねたら、「全部読んだ」って言ってて、やっぱりそれぐらいじゃなきゃプロはできないですよね。その福田さんに「本をいっぱい読むってどうやるんですか」って聞いたんですけど、「その本を読むときに何を知りたいか決めて読むと読める」って言ってました。


――積極的な読み方ですね

吉田:なんとなく暇つぶしに読むとかじゃなくて、このことを知りたいから読むって決めると興味が駆動してると読めるって言うんです。僕も実際無意識にそういう読み方をしていて、何か一つに興味が出るとそのことを知りたくて本を読んでしまう。

最近は矢野和男先生の『予測不能の時代:データが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ』というビジネス書を読んだんです。確かにコロナがこんなに流行るなんて誰も想像しなかったし、予測不能だなって思って。でも読み始めたら、データに基づいたさまざまな話を続けていった結果、四書五経(※)の「易」に辿り着いているんですよね。その内容が凄く面白くて、そうなると、これまで興味のなかった「易」にも凄い興味が出てるんです。そうやって数珠つなぎで興味が増えていった結果、どんどん多くの本を読みたくなってしまうんです。

※編集注:儒教で重視される9冊の本のこと。「易」はそのうちの一冊『易経』を指す


――若い読書家に人生の先輩としてなにかメッセージがありましたらお願いします

吉田:あまり他人のことを考えない方が良いと思います。皆がすごく好きだって言うからその本を読むのではなく、自分がその本に興味が出たときに初めて読めばいいと思います。

もしくは「武器のことが好きすぎるから、ずっと銃器の本を読む」などでもいいと思うんです。何かへの興味は自分だけのものなので、せっかく自分に備わっているオリジナリティをどんどん伸ばした方がいいと思います。

なので興味のない本を読む必要はなく、興味のある本だけもりもり読めばよい。


――自分の興味を最優先するのが大事ということですね。

吉田:「強制は娯楽を殺す」っていう言葉があって、「○○しろ」って言われると娯楽って娯楽じゃなくなるんですよ。ゲーム好きは何も言われないと一日十時間でもやっていられると思いますが、「最低でも一日3時間やれ」って言われると、逆にゲームをやめるって話があるんです。

一番大切なのは自分で選んで読もうと思って読むことなので、何も強制される必要はないと思います。他の人に言われたからっていう理由で本を読むのはやめた方がいいですね。拒否権はいつもあなたにある。だけど何もしないでいると強制的に選ばされることもあるぞ。この二つが今日伝えたいことですね。


「どんな本も現実の攻略本だと思って読んでしまう」
「30秒間読むだけでもまったく読まないより全然良い」
「興味のない本を読む必要はなく、興味のある本だけもりもり読めばよい」…
目からウロコが落ちる思いです。読書って大変、面倒、難しい…そう思っていた方にはとっても参考になるお話だったのではないでしょうか。
吉田さん、ありがとうございました!



【プロフィール】
吉田尚記(よしだ・ひさのり):ニッポン放送アナウンサー。その活動はラジオ局の中だけに留まらず、イベントの運営や本の執筆、バーチャルYouTuber、創作落語といったマルチな才能を多方面で発揮している。

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